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抗体を用いた膜タンパク質の結晶化による構造解析

Hino T, Arakawa T, Iwanari H, Yurugi-Kobayashi T, Ikdeda-Suno C, Nakada-Nakura Y, Kusano-Arai O, Wevand S, Shimamura T, Nomura N, Cameron A D, Kobayashi T, Hamakubo T, Iwata S & Murata T., G-protein-coupled receptor inactivation by an allosteric inverse-agonist antibody. Nature, January 29, 2012.
doi: 10.1038/nature10750.

 

抗体を用いた膜タンパク質の結晶化による構造解析

Gタンパク質共役型受容体(GPCR)はホルモンや神経伝達物質の受容体で、創薬の最も重要なターゲットとなっています。その立体構造が詳しくわかれば、良い薬をつくる手がかりが得られます。

しかし、このような創薬の対象となるタンパク質は、膜タンパク質と呼ばれて、細胞膜に埋もれて機能するものが多く、結晶化とX線回折による構造解析が大変困難です。特にヒトなど哺乳類の膜タンパク質での成功例はまだ多くありません。

京都大学の岩田先生は、このような膜タンパク質を認識する抗体を結晶化プローブとして使用する方法を開発されました。GPCRは膜タンパク質の中でも結晶化が最も難しいとされているものです。抗体もできにくいので、T4リゾチームなどのタンパク質を結晶化の補助として付け加えたり、ラクダ(リャーマ)に免疫して得られる一本鎖抗体などによる成功例がこれまで報告されています。

今回、千葉大の村田先生、京大の小林先生、岩田先生らのグループと共同で、パーキンソン病治療薬ターゲットのアデノシンA2a受容体に対するマウス抗体の取得に成功しました。この抗体は500種類以上の陽性ウェルからスクリーニングしたもので、受容体を不活性型に固定し、アデノシン(アゴニスト)の結合を阻害するが、阻害剤(アンタゴニスト)の結合をじゃましない、インバースアゴニストと呼ばれる活性をもっていることがわかりました。(右上の図で、黄色い部分がA2a受容体、赤い部分が抗体のFabです。)

結晶構造解析から、抗体分子重鎖のCDR3という部分がまるで指のようにのびてGPCRの7本のαへリックスが作るくぼみにつきささっている様子がみてとれます。このような分子認識をすることができる抗体を生体が短期間のうちに作ることができるということも不思議です。

これらの構造情報は、コンピュータシミュレーションによる創薬にとっても重要なデータを提供することになり、新しい技術開発への展開が期待されます。

 

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