Home » トピックス » 2012-07-24

バキュロウイルスにおける嗅覚受容体の機能的再構築
Functional reconstitution of olfactory receptor complex on baculovirus.

Mitsui K, Sakihama T, Takahashi K, Masuda K, Fukuda R, Hamana H, Sato T and Hamakubo T.
Chemical Senses. 2012 Jun 15, in press.

嗅覚受容体はG-タンパク質共役受容体(GPCR)のメンバーとしては最大の遺伝子ファミリーを形成しており、ヒトで約300種類、マウスでは約1000種類の機能的嗅覚受容体が知られています。各嗅覚神経は一種類の嗅覚受容体のみを発現していますが、一種類の匂い物質は数種類の嗅覚受容体に認識されるため、その認識パターンにより、たったこれだけの種類の嗅覚受容体で10万種類ともいわれる匂い物質を感知しているといわれています。匂いの各認識パターンを特定することは、生物学的にも、また、工業的利用の点からも重要な課題であると考えられます。

In vitroでの嗅覚受容体機能のアッセイ方法が種々検討されていますが、本来の嗅覚神経細胞ではない異種細胞系における嗅覚受容体の発現レベルは極めて低いことから、アッセイは容易ではありません。当研究室では、これまでに組換えタンパク質のバキュロウイルス発現系において、昆虫細胞に感染した後に出芽してくる出芽ウイルス(BV)のエンベロープ上に標的組換え膜タンパク質がディスプレイされることを発見し、いくつかの代表的なGPCRの機能的複合体をBV上に再構築できることを示してきました。BVディスプレイを利用するメリットは、内在性のタンパク質が少ないため、低バックグラウンドのアッセイが可能なことと、安定した同一ロットを比較的容易に大量に得られること、さらに哺乳動物細胞に比べ発現量が多いことにあります。

そこで本研究では、このメリットを生かした、嗅覚受容体の新しいin vitroアッセイ法の開発を検討しました。

嗅覚受容体としては、マウス由来のmOR-EGおよびS6を選び、その遺伝子と、受容体複合体構成のための他の因子{3型アデニレートシクラーゼ(AC3)、G-タンパク質αolf、β、γ各サブユニット}の各遺伝子を持つ組換えバキュロウイルスを昆虫細胞に共感染させたところ、出芽するBV上にこれらタンパク質が発現され、機能的な受容体複合体を再構築することに成功しました。

図1 BV上への嗅覚受容体複合体の共発現の概念図 図1 BV上への嗅覚受容体複合体の共発現の概念図 (OR:嗅覚受容体)

図2 BV上に再構築した嗅覚受容体複合体によるリガンド容量依存性cAMP産生応答曲線 図2 BV上に再構築した嗅覚受容体複合体によるリガンド容量依存性cAMP産生応答曲線: 再構築受容体発現BVにmOR-EGおよびS6の各特異的リガンドであるオイゲノール、アゼライン酸を容量を変えて処理したところ、cAMP産生量変化が典型的シグモイド型曲線を描き、再構築受容体が機能的であることが証明された.

今後の課題は、全ての嗅覚受容体複合体を本方法によりBV上に再構築させることと、それらの機能のより高感度な検出法を開発することにあると考えられます。