白血病細胞におけるアスパラギン合成酵素蛋白質レベル評価法への
応用の可能性
Monoclonal Antibodies to Asparagine Synthetase for the Evaluation of Protein Level in Leukemia Cells.
Kusano-Arai O*, Iwanari H*, Mochizuki Y, Nakata H, Kodama T, Kitoh T, Hamakubo T.
Hybridoma 2012 Jun in press.
*:These authors contributed equally.
アスパラギン合成酵素(以下ASNS)は、生体内でL-グルタミンを窒素原としたATP依存性の反応により、L-アスパラギン酸からL-アスパラギンの生合成を触媒する酵素です。L-アスパラギンの供給量が減少した場合、正常細胞では生合成により補うことができますが、リンパ芽球ではASNSの蛋白質発現レベルが低いために生合成では補いきれず、外部から取り入れなければ細胞が生存できません。
L-アスパラギナーゼ(以下ASNase)はL-アスパラギンをL-アスパラギン酸とアンモニアへと加水分解する酵素であり、多くの急性リンパ性白血病において重要な治療薬として用いられています。ASNaseを投与すると、まず血液、髄液、骨髄のL-アスパラギンが分解され、ついには細胞内のL-アスパラギンも分解されて枯渇してしまいます。正常細胞はL-アスパラギン酸からL-アスパラギンを生合成できるので、ASNase投与の影響を受けません。しかしリンパ芽球細胞においては、ASNS蛋白質発現量が非常に低いためL-アスパラギンを生合成することができず、L-アスパラギン欠乏状態に陥り、遂には細胞死を起こします(図1)。ところが一部の白血病患者さんにおいてはASNS蛋白質発現量が高いことが知られており、それらの患者さんにはASNase療法が功奏しない場合があることが判ってきました(ASNase抵抗性)。そこでASNS活性(あるいはASNS蛋白質量)を測定することによって、ASNase療法を適用するかどうかを判定することが重要であると認識されるようになりました。しかしながら、ASNase抵抗性とASNS mRNA発現量の相関については広く報告されていますが、ヒト白血病細胞におけるASNS蛋白質の量や酵素活性などを測定した研究はまだごくわずかしかありません。
そこで私たちは、ヒトASNSを特異的に認識できるモノクローナル抗体を、発芽バキュロウイルス免疫法により開発しました。これらの抗体は、イムノブロット、免疫蛍光染色、フローサイトメトリー、酵素結合免疫吸着法(ELISA)においてヒトASNS蛋白質を認識できました。これらの抗ASNSモノクローナル抗体を用いて、リンパ芽球細胞内ASNS蛋白質のフローサイトメトリーによる定量測定に成功しました(図2)。
さらに、2種類のモノクローナル抗体を組み合わせた2抗体サンドイッチELISA法により、細胞内のASNS蛋白質量をELISAで定量できる可能性を示すことができました(図3)。
本結果により、白血病のASNase感受性とASNS蛋白質量の相関を臨床評価できる可能性が示唆され、ASNS蛋白質が、白血病におけるASNase療法を適用するかどうかの治療方策のマーカーとなると期待されます。